下弦の月
その訃報を、宇都宮の戦いに勝利して…





宇都宮城を陥落させた後に、




後を追って来た大鳥さんから聞いた土方さんはーーー、






いきなり、私の手を引いて……




本陣の裏手の小高い丘の上に連れて来ると、




握っていた手を離し、肩を抱いて胸元に引き寄せた。











「なぁ…月香…俺は…近藤さんを押し上げて、もっと高い所まで担ぎ上げてやりたかったんだ。それなのに……どうして俺は……あの人を置き去りにした挙げ句に…死なせて…俺だけ生きてんだろうな……あの人が…居たから…今まで…闘って来れた…しかも…斬首だ…罪人扱いじゃねぇか…」






顔を上げると、





切れ長の瞳からポタポタと、たくさんの雫が止めどなく流れいた。





その雫に手を伸ばして、拭って。






「土方さんは…充分過ぎるくらいに近藤さんと闘いました。だけど…まだ終わってません、近藤さんが土方さんに手を託した、新撰組のために最後まで闘って下さい。」







そう、涙を堪えて伝える。





「…月香…お前が居てくれるてよかった…お前が居なきゃ俺は…もう生きる意味を失っていた……まだ終わってねぇんだよな…」








「そうです…終わってません。私は何処までも着いて行きます。土方さんが生き急がないように…自分の生きる意味をまた見失わないように…」








「ああ…側に…居てくれ…」






顔はまた、土方さんの胸に寄せられて…




もう片方の腕を背中に回されて……





抱き締められた瞬間、





私の瞳にも涙が滲んで溢れ落ちていた。








「月香…我慢するな…声を上げて泣けばいい…」








場所が場所なだけに、声を抑えて泣いている私に…



そんな優しい声音で言われたら…自然と、




いつもみたいに…



子供のように声を上げて泣いていた。
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