下弦の月
極寒の地で迎える大晦日。





遠く遠くから僅かに聞こえるだろうか。





屯所の縁側で、二人で聞いた除夜の鐘。








港まで出て…海を眺めながら、






「もう…最後かもな。お前と年を越すのは…」






そんな、悲しい現実を突き付けられると……




わかっていても、泣いてしまいそうで。




唇を噛みしめる。







「…そうですね…だけど…歳三さんとは…まだ、あと少し一緒に生きられます…」







「そうか…雪が溶けたら新政府軍の奴らが来るだろうしな…それまでは、お前が悲しくないように寂しくないように…出来るだけ多くの時間を過ごしたいと思ってる。」







いつだって…その優しい声で、私が嬉しくなるような、




幸せになるような言葉を伝えてくれる。





だけど……この人の隣に立って居られるのも、




大きな背中を見つめられるのも、




大きな手で頭を撫でてくれるのも、



唇を重ねられるのも、




逞しい腕に抱かれるのも、





あと、僅か。





三月には、新政府軍が攻めて来て……




五月には…別れが来る。





避けられない、避ける事を許してくれない別れを……




その時、私は受け入れられるだろうか。
< 79 / 161 >

この作品をシェア

pagetop