下弦の月
《柊輔》



「宜しくお願いします。」




綺麗な笑顔で、頭を下げた彼女に。




手を差し出して、





「水上 月香さん、頑張り屋だって…聞いてるよ。よろしく。」





そう、返すと。




躊躇しながらも手を握り返して、俺を見上げた。




その瞳は、切なそうに揺れてる気がしたが。





「どうした?」




「いえ…何でも…」





静かなエレベーターで、小さな声だったが俺の耳にしっかり響いた。








「水上、俺と何処かで会ったことあるか?」





案内をされながら、気になっていた事を聞けば。





「えっ?どうして…ですか?」





「ずっと、俺を見ながら泣きそうな顔してる。」





「そんなこと…ないですよ、雰囲気が似た人を知ってるだけです。」





「そうか…俺の勘違いだったのかもな…」





そんなはずはないはずだが、これ以上聞くのも悪い気がして。




聞かなかったが……彼女の事が何故か気になっていた。





握った手の温もり、笑顔が懐かしい感じもしたから。





余計かもしれない。
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