恋歌-Renka-
「俺が行かなくなった間に、そんなことがあったのか………」
涼太が悲しそうに呟く
「ああ。ちょっとややこしいんだけど……父親がいた時の名字は覚えてない。冬院っていうのは、母親と汐莉おばさんの名字………でも、汐莉おばさんは結婚して吉野になったってわけだ………」
「だから………表札が吉野なのか……」
「まあ、そのおじさんも……私が幼い時に亡くなってしまったんだけど………」
私は何もない空虚を見つめる
すると急に涼太が私を
抱き締めたーーーーー
「りょ、涼太!?」
「ごめん!!俺があのとき、花音から逃げなければ………!!」
涼太がいきなり
わけのわからない
事を言い出す。
「ちょっと落ち着け!急にどうした?」
「俺が、あの時………花音を見捨てて逃げなければ……こんな事にはなってなかったかもしれないのに!!」
ギリギリと歯軋りを立てて
過去を悔やみだす涼太
あの時?
見捨てた?
一体………何の話だ?
「ちょ、ちょっと待て!!それは一体何の話だ!?」
「あれだよ………小5のとき。花音がガラの悪い中学生に絡まれてるとき………」
ガラの悪い中学生?
ああ、そういえば
そんなこともあったなぁ
でも、それが何で
逃げたことになるんだ?
「あの時………」
私が疑問をなげかける
より先に話を続ける
「………俺、あの現場を見て…花音を助けなきゃって思ったんだ。でも………いじめられてた時の記憶を思い出したら足がすくんで………」
涼太があまりにも
真剣に話すから
私は浮かんでいた
疑問など忘れて
聞き入っていた。