来世にご期待下さい!〜前世の許嫁が今世では私に冷たい…と思っていたのに、実は溺愛されていました!?〜
「ふ……っ、ふ……」


 前回『同じこと』をした時のように今回もまた恋幸は上手く息継ぎができておらず、裕一郎はゆっくりと顔を離して親指の先で彼女の口の端を(ぬぐ)いながら低く囁いた。


「……恋幸さん、口ではなく鼻で息をしてください」
(あれ……いま、したのなまえよんでくれた……?)


 酸欠になりかけていた頭を精一杯働かせ、たった今伝えられた言葉の意味を恋幸は何とか理解する。


「うん」


 彼女が短く返事をして頷くと、無意識の内に湧きあがり網膜(もうまく)(おお)っていた涙のせいで歪む視界の中、目の前にいる裕一郎が口元に柔らかな弧を描いたような気がした。
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