予知夢で香月くんが死ぬことを知ってしまった。
帰り道も翌朝も、気まずい空気が流れた。
予知夢がなければ100%一緒に登下校なんてしたくなかった。
香月くんは私が邪魔したって気づいているんだろうか。
もし気づかれてたら、失望されたかな。
高下さんと…付き合うことになったのかな…。
聞きたいことはたくさんあるのに、ずっと聞けないまま…
午後になった。
今日はさすがに一緒に回らないよね。
昨日からずっと気まずい空気だし…。
暇だし、よっちゃんの手伝いでも…「麻」
名前を呼ばれ、ドキッとする。
「か…づきくん。」
「一緒に回るだろ。行くぞ。」
「…うん。」
ああ、私ってずるい。
ひどいことしたのに、気まずいのに、
誘われて、嬉しくて、断れない。
ダ貞子の格好のまま、香月くんと最終日の文化祭を回ることになった。
あんまり会話しなくてもいい劇にいっぱい行こう。
そのまま、夕方まで劇や吹奏楽部の演奏を見て、少ない会話で文化祭を過ごした。
あとは後夜祭…
「アハハ…付き合ってくれてありがとう!
後夜祭、よっちゃんと大連くん誘おうよ!」
「……。」
「香月くん?」
やっぱり怒って…「昨日の音、麻だろ。」
「えっ!?あ、その…」
バレてた!?
怒ってたんじゃなくて、失望…?
「ご、ごめんなさい…」
「来い。」
香月くんは私の腕をつかみ、昨日の告白現場の教室へ引っ張った。
「ごめん、あの…足が当たって…音が…」
「足、ねぇ…」
「っ…」
外から後夜祭のざわめきが聞こえる。
もうすぐ始まるんだ。
「ごめん。違う。」
嘘をつくのはやめよう。
私は何個も隠し事ができるほど器用じゃない。
隠すのは、変わってしまった予知夢と叶わない恋心だけ。
「本当は邪魔した。
高下さんいい子だし、意地悪な香月くんと付き合うことになったら可哀想だしね!アハハ…」
「生意気言うな、ダ貞子。」
「そ、それで?付き合うことになったの?」
「どう思う?」
「へ!?」
予想外の質問返しにすっとんきょうな声をあげる。
「麻を見習って、答えは焦らすことにした。」
「な…何それ…」
「どう思う?考えろよ。」
「……午後、私と文化祭回ってくれたし、
つ、付き合ってない…よね?」
半分希望を混ぜて問いかける。
「この後の後夜祭、一緒に見られない。
麻とも、大連とも、四谷さんとも。」
「えっ!!」
それって…
高下さんと約束しているから…?
昨日、私が邪魔したあと…
二人はどうしたんだろう。
夢と同じように、力強く彼女を抱き寄せたんだろうか。
「昨日、高下さんを抱きしめた?」
「は??」
「付き…合うの…?」
自分でもわかるくらい震える声。
もし…肯定されたら…
「ばーか」
顔を上げると、いつもの意地悪な笑顔ではなく、意外にも真剣な顔。
「付き合わねぇよ。」
香月くんの口から出た言葉に心の底からほっとする。
「そう…なんだ。」
「彼女いるのに、他の女子と文化祭回るわけねぇだろ。
後夜祭出れないのは、サッカー部の裏方手伝い。」
「そっか…」
「てか、抱きしめるってどっから出てきた。」
「ゆ、夢で…
予知夢じゃないけど…。ごめん、変なこと言って。」
「ふ~ん」
外から歓声が聞こえ始めた。
後夜祭、始まったんだ。
「どんな風に?」
「え?」
その瞬間、
私の身体は強い力で香月くんへ引き寄せられた。
力強く、腰と後頭部を引き寄せる腕。
私の体温は瞬く間に上昇する。
大きい身体。
私をすっぽり覆えるくらい。
それに骨とか筋肉とか女子とはまるで違う。固くて、熱い。
服から柔軟剤のやわらかな香りがする。
ああ、気持ちがいい。
ずっとここにいたい。
私は無意識に香月くんの背中へ手を回し、着物を掴んだ。
夕日の差す教室、音楽と歓声が外から聞こえる教室でーー
香月くんの用事の時間まで私たちは静かに抱き締めあっていた。