予知夢で香月くんが死ぬことを知ってしまった。
「ちょ、おい。待て。
高崎、お前何言ってんの!?」
「何って…
かわいいじゃん!七瀬さん。」
「はぁ!!?」
俺は思わずその場で立ち止まった。
高崎は鼻の下を伸ばして麻を見つめている。
「可愛い…って…、あいつが?」
「俺、黒髪ロングって好みなんだよなぁ。
目付き悪いのもなんかいい…!」
「目付き悪いって…アイツ、性格は頼りない…
っつーかポンコツだぞ。」
「まじか!ギャップ~♪可愛いー!」
こ、こいつ…マジか…。
俺的には先入観が邪魔して可愛いなんて
正直思ったことなかったけど…
麻は昇降口の壁に背を預け、
スマホに視線を落としている。
俺たちが近づいていることに
まだ気づいていないようだった。
「黙ってたら美人、しゃべったら可愛いなんて、
いいこと尽くしじゃん~。」
「ハハハ…」
黙ってたら暗い、しゃべったら変人
の間違いだろ。
「香月、俺のこと紹介しろよ~」
「え…」
なんとなく麻の方に視線を移す。
さっきまで間の抜けた顔で俺を見てたのに。
長い黒髪が外から漂う風に揺れている。
珍しく黙った表情は同年代の女子より
大人びて見える。
麻って…あんなだったか…?
「いいだろ?香月。」
「えっ、あ…ああ。」
高崎に再び声をかけられハっとなる。
ちょうどいい。
麻が高崎と付き合えば、俺が死ぬっていう
妄想にも飽きるかもしれない。
麻が高崎と付き合えば…
騒がしいサッカー部が近づくと、
麻はすぐに顔をあげた。
キョロキョロとせわしなく辺りを見渡し、
俺を見つけると安心したように笑顔を浮かべた。
俺は無表情のまま、
そんな麻の顔をじっと見つめていた。