予知夢で香月くんが死ぬことを知ってしまった。





**


早歩きで麻が待つと言っていた昇降口へ急ぐ。

着替えもしてたら結構遅くなった。


「返事はいつでもいいから。」


え?誰かいる?
ていうか、その台詞って…
まるで告白…


下駄箱の影、見つけた人影は、
高崎と麻だった。


高崎が麻の肩をつかんでいる。

この状況…って


「あ…えっと…
わ、私は…
香月くんが…!「麻。」


思わず呼び止め、俺は驚きで固まる。


俺の方を振り向いた麻の瞳から
涙が落ちるのが見えたからだ。



「何してんだよ!」


なんで麻が泣いてんだよ。

予知夢のことでもないのに…

麻が予知夢のこと以外で…
俺のこと以外で涙を流していることに
無性に腹が立った。


「麻に何言った。」

「香月に関係ねぇよ
七瀬さん離せ。」

「離すわけねぇだろ。
帰るぞ、麻」


高崎は不服そうに俺を見ていた。

まぁ告白中に相手を横取りされたら当然だ。

でもこいつが泣いてんのに、おめおめ待ってるなんてできない。


麻は歩き出したら大人しくなった。
うつむいて、素直に付いてきている。

怒ったか…?

もし、麻が高崎のことを好きだったとしたら
俺はとんだ邪魔者だ。


「なんで泣いてたんだよ」

「え…」


問いかけると、うつむいていた顔を上げた。

なんか…顔赤い?
泣いてたからか?


「か、香月くんには関係ないよ」

「そうかよ。」

「うん…。」

「…」


関係ない

その一言で一気に機嫌が悪くなるのを理性が抑える。


あー、俺大人になった。
小学生の俺だったら、「お前なんか知るか!」っつって今つかんでる麻の腕を離して走り出してる。


そうしないのは、大人になったから。

そんなことしても、俺が知りたいことは永遠にわからないってわかってるから。

なにより、この手を離すのが怖いから。


「香月くん…は、えっと、東郷さんは…」

麻は申し訳なさそうにモゴモゴしゃべる。

「お前、また余計なことしやがって。
夏合宿の時下手な協力すんなって言っただろ。」

「協力じゃないよ!邪魔しなかっただけで。」

「断ったよ。」

「そっ、そっか…」


麻は切なそうな笑顔を見せた。


いったいどういう気持ちなのか…

俺にはこいつの笑顔の真意を見破ることができない。


「や、やっぱり香月くんはモテるね。アハハ…」

「そんなことねぇよ」

「そんなことあるよ!学年で一番かわいい東郷さんに告白されて…他にも香月くんを好きな人いるし…」

「へぇ、誰」

「お、教えないし!!」

「あーそ」


麻はぷいっと俺から顔を背けた。


なんか…

なんか、腹立つ。

こっち見ろよ…




「麻」


「な、何…」



俺はコイツの名前が好きだ。

響きもそうだし…

絹じゃなくて麻。
庶民ぽくて親しまれてるイメージ。

実に麻らしい。


「お前の髪、細いな…」


麻の髪も好きだ。

細くて、真っ黒で、腰まで長い髪が
振り返る度に軽やかに踊る。

俺と話すとき、肩をなめらかに滑り落ちる。


「そ、そうかな…エヘヘ。」

「将来…」

「え…♡」

「将来ハゲそう。」

「んなっ!!?」


麻はあっという間に俺がつかんでいた腕を振りほどいた。

つまりは、今まではよしとして腕を組んでいたということ。


「な、なんてこというの!
ハゲんのは香月くんだ!バカ!ハゲ!おっさん!」


中身のない悪口に俺はケラケラと笑う。(嘲笑)


「ホント、バカだな。麻は。」

「今バカなこと関係ないでしょ!」

「バカだよ。」


俺は車が走る車道から麻の腰を抱き、
一歩歩道側へ引き寄せた。


「ありがと…」


引き寄せた腕と逆の手で、細い細い麻の髪に触れる。

冷たくて、軽くて…なんか気持ちいいな。


「なっ、何を…///」

「高崎のことで泣いたのか…」

「へ…」


麻は驚いたように目をまんまるくして俺を見上げた。


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