予知夢で香月くんが死ぬことを知ってしまった。
私はいつものように学校とは逆方向に歩き出す。
冷えてきた朝の空気を思いっきり吸い込んだ。
定期テストも無事終わり…
と言っても、私のどんくささに嫌気が差した香月くんは、香月くん家での1回きりしか教えてくれず、順位も結局130位台。
無事と言っていいのかわからないけれど、
とりあえず今日から2日間はテストと正反対の楽しい行事・文化祭!
私たちのクラスの出し物はコスプレ喫茶で、
実行委員のよっちゃんを中心に
今日まで結構凝った準備をしてきた。
みんなで一緒に準備してきたおかげか、
かなり楽しみだ。
「麻」
ボーッとしていたところに声をかけられ、はっとなる。
「香月くんっおはよ。」
「おはよう。
朝からボーッとしてるとコケるぞ。」
「文化祭楽しみだなって考えてただけ!」
「衣装の準備終わったのかよ。」
「もちろん。香月くんは?」
「朝飯前。」
コスプレ喫茶では、クラス全員が各々に合ったイメージのコスプレをすることになっている。
ガチ枠もあればネタ枠もある。
香月くんは大正時代の書生さんのコスプレ。
袴なんて結構凝った衣装になる辺り、やっぱり香月くんは「イケメン」枠だ。
「さすが、モテる人は衣装のヒエラルキーも高いよね。」
「俺は麻のコスプレが一番楽しみだけどな。」
勘違いしないでいただきたい。
これは甘い言葉でもなんでもない。
その証拠に、香月くんの口許は笑い声を漏らさないよう震えている。
「もとはと言えば香月くんのせいなんだからね…。」
憎しみのこめて香月くんをにらむ。
「おお、その目。貞子でもよかったな。」
最初、私の衣装は黒髪ロングという理由で貞子に決まりそうだった。
あの井戸から出てくる女の霊だ。
***
「じゃあ麻は貞子ね。
次は…」
「麻がお化けやってもつまんねぇだろ。
怖くもないし。」
一番前の席で、せっせと役決めを進めるよっちゃんに口を挟んだのは香月くん。
「別にお化け屋敷じゃないし…」
「でもイメージが真逆すぎて。
どっちかってーと、『ダサコ』だろ。『ダ貞子』?」
その瞬間、クラスがどっと笑いに包まれる。
「かっ、香月くん何言ってるの!」
私は真っ赤になりながら文句を言う。
「あの二人いっつも言い合ってるよね~」
「七瀬っておしとやかそうなのに、結構やらかし系だよな。」
「ダ貞子の方が面白いよ!」
香月くんのせいで、クラスメイトにも最近いじられ出した。
香月くんを好きな子にも影で
「麻ちゃんとの絡みなら許せる」
なんて言われる始末。
いじめられるよりはいいんだけどさ…
私のいじられキャラ定着の影響もあってか、
『ダ貞子』はすぐに受け入れられた。
「じゃあ麻はダサいかっこうした女の霊ね」
よっちゃんのまとめで私は完全なネタ枠になった。
***
「あのとき香月くんが余計なこと言わなければ、ただの貞子だったのに…」
そしたら、香月くんと和服でちょっとおそろ♡だったのにー!
「俺のおかげでクラスの人気者になれてよかったじゃん。」
「笑われ者だよ。」
「安心しろよ」
何のことだろうと思い、香月くんを見上げる。
私の顔を見ると、意地悪な笑顔を浮かべた。
「シフトが休憩の時、私服だと思われないように一緒にいてやるからさ。」
「え…」
思わず歓喜の声をあげそうになるのをとっさに抑えた。
何か余計なことを言ったら、その最高のごほうびを冗談で済まされるような気がしたから。
「うん」
それだけ呟いて、また前を向いた。