どうも、薬作りしか取り柄のない幼女です

「……っ、こ、これは……」

 許されたならば生きるしかない。
 そう決めて、体調の回復に努めた私は翌々日にようやく熱が下がって起き上がれるまでになった。
 そうしてベッドから降りると、とんでもないことが発覚する。

「どういうことなの? 縮んで——いえ、若返っている……!」

 短い脚、小さな手——驚いて鏡を探すがこの部屋にはないみたい。
 仕方なくステータスを開く。
 これは誰でも使える自分のスペックを表示する簡易魔術。
 十歳になると聖殿で授けられる魔術で、これを用いて人生の指針を立てるのだ。
 私はこのステータスに[薬草知識]が表示されていたので、薬師を目指した。
 そしてこのステータスには身長と体重も表示される。
 私の今の身長は——。

 身長:120センチ 体重:18キロ 状態異常:痩せすぎ

 ……や、痩せすぎ……!

「こ、これって……」

 間違いない。
 私の体は六、七歳くらいの頃に若返っている。
 背丈は当然以前の半分以下。
 肌はぴちぴち、ステータス画面に映る顔のそばかすも、ものすごく薄い。
 どうせ人前に出ないからと、そばかすはいくら濃くなっても放置していたけれど……そういえば小さな頃はほとんどわからないくらい薄かったんだっけ。

「おっとと……とっ!」

 頭が大きいからなのか、痩せすぎだからなのか、私の体はすぐによろけてしまう。
 ベッドに座り、一度ステータスを終了し、今度は部屋を見回す。
 木製で、少し隙間があるほったて小屋みたいな作り。
 でも、一応屋根はついているし家具も置いてある。
 私が寝ていたこのベッドだが、よくよく見れば木枠の中には(わら)が敷き詰められていた。
 その上にシーツが覆い被さっていて、私はそれに寝ていたみたい。
 藁はいい匂いだし、シーツの生地が分厚いおかげでふかふかしてる。
 気持ちいい。寝心地もよかった。
 ぼす、と仰向けに寝転がる。
 天井も藁。骨組みの上に、藁が敷き詰められている。顔を横に向ければ窓。
 窓、と言っても木が蓋に立てかけてある。
 家具も造りが荒く、平民のものにしてもちょっとオンボロすぎるような?

「起きた?」
「あ! お、おきた!」
「入る」
「はい!」

 扉がコンコンと鳴る。よれた扉はノブもない。押して開くみたい。
 入ってきたのは白虎(しろとら)の半獣人、タルト。

「飯」
「ありがとう」
「起きられるなら、出る?」
「うん、ダウおばさんにおはよう、言う」

 少し歪んだ木皿に乗せられた麦を湯溶かしたものに、ほんのり塩の味がついたもの——麦粥をかき込む。
 私が生まれ育った崖の国はあまり豊かではなかったけれど、ここはそれを上回る貧しさ。
 食が細いのと、体調が悪くて食欲がなかった昨日、一昨日はこれでも十分だったけれど、食欲が戻ってくると味はもとより量も物足りない。
 もちろん、そんなこととても口にできる立場ではないけれど!
 だってこれを作ってくれた人——ダウおばさんは私のために元々少ない食糧を分けてくれているのだ。
 タルトの断片的な話だと、ここは崖の国と聖森国の中間にある狭間(はざま)の森。
 その森の中心部にある、流れ者の集落。集落の人たちは、ここを『狭間の村』と名づけて支え合いながら生活しているそうだ。
 最初はよくわからなかったけれど、タルトが半獣人——人の姿に耳や尾がある、半端な姿の獣人をそう呼ぶ——なので、きっと聖森国に居場所がない者が寄せ集まったスラムのようなところなのだと想像できた。
 聖森国は完全な獣の姿と人の姿を使い分けられない者は“半獣人”と呼ばれ、差別を受けると聞いたことがある。
 この麦粥を作ってくれたのはダウおばさん。
 ダチョウの半獣人で、人の姿になることができない。
 でも会話や文化的な生活は可能なため、肉として狩られないために聖森国から出てこの村に身を寄せているのだという。
 そして私はまだ会ってないのだけれど、この家にはもう一人、私以外に人間がいるらしい。
 私が病気かもしれないから、接近禁止になっているんですって。
 その子の名前はカーロ。崖の国から口減らしに捨てられた子だという。
 この村には、そういう事情の人が集まってる。
 私にはおあつらえ向きの村かもしれない。
 少なくとも、私は崖の国には戻りたくないし、獣人の国である聖森国には歓迎されないと思う。
 聖森国に行ったことはないけれど、スティリア王女の嫁ぎ先だと思うととてもではないが行ってみたいと思わない。
 それに、この村には風聖獣様やダウおばさん、タルトがいる。
 私の命を助けてくれた人たち。
 その人たちに恩返しもしないままというわけにはいかない。

「ごちそうさま」

 食べ終わると、ベッドを出る。
 するとタルトが「服邪魔」と私の全身を上から下まで見て言った。
 彼は少し、言葉が足りない時がある。
 今のは大人の頃に着ていた服を、畳んで縛って着ている私に「サイズが合ってない」と言ったのだと思う。
 確かに、その通りだ。

「うん。でもこれしかない」
「そうか」

 よくよく考えると、私は自分の作った毒で死に損ねたのだ。
 副作用かなにかが強くでたのか、はたまたあの薬の本来の作用が“若返り”だったのか、それはわからない。
 確認しようがない。
 ただ、もしも若返りの効果のある薬、もしくは副作用が若返りであるならば——王侯貴族はほしがりそうだ。
 そう、特に——スティリア王女とか……。

「っ」
「? どした?」
「な、なんでもない」

 嫌だ、もうあの人と関わりたくない。
 隠そう、正体を。私は——いえ、薬師ジミーアは死んだことにすればいいのだわ。
 私はジミーアではなく……えっと、そうね……ミーアと名乗ろう。
 別人として新しい人生を歩むの。
 聖獣様に許され、生き延びたのだもの……生まれ変わったも同じよ!
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