下弦の月*side story*
八重さん。





「僕が死んだら、一くんを追い掛けるんだよ。何を言われても…離れちゃ駄目。僕は、八重さんは感謝してるんだ。ずっと…看病してくれて、役目を果たせなくなった僕の支えになってくれて。だから…幸せになって欲しい。」






涙がジワリと、八重さんの頬を濡らしている。




最後なのに、泣かしちゃったね。





ごめんね、の変わりに腕を伸ばして指先で止まるまで涙を拭い続ける。








「…沖田さん、もう大丈夫。ありがとうございます、私こそ沖田さんと二人で過ごす日々は楽しいですよ。だから、まだ私と過ごして下さい、斎藤さんは必ず迎えに来てくれますから。でも最後まで私は沖田さんの側にいます。」






「八重さん…ありがとう。」






嬉しくて、嬉しくて。




八重さんの言葉のひとつひとつが、僕の心を温かくしてくれた。





そして、大好きな笑顔を見せてくれたから。







もう、悔いはない。







ゆっくりと月灯りが照らす中で、瞳を閉じると………





愉しかった屯所での日々が、走馬灯のように蘇って。





大きな暖かい手を差し伸べて、




総司。





と、笑ってくれている近藤さんの手を迷わずに掴んでいた。





やっぱり、先に逝ってたんですね。






僕も逝きます。









ありがとう、八重さん。




皆。





もし生まれ変わったら、何を見るかはわからない。




だけど、その時はまた悔いが残らない人生を歩みたい。








慶応4年、5月30日。




新撰組一番組組長、沖田 総司。





逝去ーーー。





享年 25歳。

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