下弦の月*side story*
まだ、残暑厳しい9月ーーー十三夜。







「月見してぇな……」






非番の永倉さんが、洗濯物を干している私の背後で呟いた。







「永倉さんは、お酒が呑みたいだけでしょ?」






振り返ることなく、返事をすると。




声を上げて笑って、その通りだ、






「さすが、月香ちゃんだな!」








振り返った私にニカッと笑顔を見せた。




原田さんと同じ、少年のような笑顔。





私は、この笑顔がけっこう好きだったりする。





土方さんが時々見せる、ふんわりした笑顔もいいけれど。




明るく賑やかな二人だから似合う、笑顔だから。





どんなに落ち込んでいても、この笑顔を見るだけで、




落ち込んでいた事が馬鹿らしく思えてしまう、そんな力がある。




「土方さんに、許可をもらって来てくれよ?」






「えっ?私がですか?」






「月香ちゃんからお願いしてくれりゃ、土方さんも許してくれる。頼む!」







永倉さんに、手を合わせて頼まれて。




しかも……けっこう好きな笑顔付きじゃ断れないよ。





本人は私が自分の笑顔に弱いことなんて、気付いてないんだろうけど……仕方ないか。






「わかりました。洗濯物が終わったら土方さんのお部屋に行って来ますね。」






頼んだぜ、と永倉さんがニカッと笑った直後!






「月香、その必要はねぇぜ。」





低い優しい響きの声がして。


振り返ると、永倉さんの後ろに土方さんが立っていた。





まずい、って表情の永倉さんに、土方さんは。







「ったく…てめぇがしてぇなら、てめぇで頼みにきやがれ!」





と、拳骨で永倉さんの頭を軽く殴って。






許可してやるよ、と笑みを浮かべた。






「やったぜ!」





ガッツポーズをした永倉さんを、やれやれ、といった表情で眺めながら。




懐から紫の巾着を出して、お金を永倉さんに渡して。





「買い出し、行って来い。団子の材料もいるだろ?」





背中を叩いた永倉さんが、御機嫌に出掛ける姿を見ながら。

アイツだけじゃ心配だな、と呟いた。






そこへーー。


朝の巡察帰りの斎藤さんに事情を説明して、永倉さんに同行するように命じた。
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