空を舞う金魚
瞼の裏に、光が戻ってくる。恐る恐る目を開けると、苦笑したままの砂本が目の前に居た。
「駄目じゃない、ちゃんと覚悟を決めておかなきゃ。男と付き合うって、……そう言うことだよ?」
何時までも安全な相手じゃいられないよ。
そう言って砂本は千秋を解放した。千秋は自分の甘さを凄く反省した。怖くない男の人なんて、居ないのだ。今朝の痴漢みたいになるか、渡瀬みたいに拒んでも自分のものにしようとするか、砂本のように待ってくれるか、どう道が分かれるかは分からないけれど、でも全部同じ『男』だ。
砂本から解放されて、千秋は項垂れた。自分の勝手で返事を急いだ。ちっとも約束を分かっていなかった。そのことがとても恥ずかしい。
「私……」
何時までもあの時から時計が進まなくて困る。千秋はあの日から年を経た割に、気持ちが卒業式の日のままだ。砂本が微笑んだ。
「良いよ、今日は。綾城さんも大変だったし、渡瀬くんも僕もおかしかった。……多分、朝の痴漢が悪いね」
そう言って片目を瞑って笑う。笑い事ではないけれど、恐怖にすくみ上った出来事が、二人の行動で上書きされて、少し楽になった。少なくとも二人は千秋のことを真剣に思ってくれたゆえの行動だから。
閉館になったスカイツリーを離れる。そう言えば地上の灯りは、砂本と見たプラネタリウムの星々に似ていたな、と思った。