空を舞う金魚
そうだ。違う。責められてると思うのはお門違いだ。千秋が甘い夢を見たくて、心を偽った。恋をしてるふりをして愛してくれる砂本に縋った。好きだと真っすぐ伝えてくれる渡瀬に背を向けた。子供のように甘いことを考えてた。恋をするなら傷付くこと傷つけることを恐れちゃいけない。いい子のふりは通用しない。
テーブルはいつの間にかデザートに代わっていた。きれいなケーキの横の飴細工の伏せた籠の中に光るものが置いてある。店内の照明を受けて光り輝くのは、指輪だ。プラチナに、ダイヤが嵌っている。
「…………っ、わ……、私……」
目の前に展開された光景に動悸が走る。砂本に告白されたとき、焦りで声が震えたのを、砂本は落ち着いてと言ってくれた。急かさないと言ってくれた。
「プロポーズをしておきながらドイツに発つような強烈な印象を残す相手に対抗するには、これくらいしか思いつかなくて」
そう言って微笑う砂本は、やっぱり返事を強要しない。こんなやさしさに甘えながら、千秋の頭の中は渡瀬でいっぱいだ。