空を舞う金魚
「そういう協調主義、私、好きですよ」

椅子の後ろに回り込んで、砂本の顔を覗き込む。ちゅっと音をさせてこめかみにキスが落ちた。

「びっくりだな。君、渡瀬くんが好きだったんじゃないの?」

「これまで何年砂本さんを見てたと思うんです?」

そうなの? と微笑う砂本に、分かってないなあ、と滝川は苦笑した。

「ところで、そのリング」

指差す先には飾りの籠に入れられた銀に光る指輪。

「私、千秋ちゃんとサイズ同じなんですよね」

ひらひらと左手を振る。苦笑してしまって、砂本は首を後ろに垂れた。

「そうだとしても、改めて買うよ。使いまわしなんてひどいこと、僕には出来ない」

「傷心の割にやさしいんですね」

微笑む滝川に砂本が視線を送る。

「新しい恋が出来るのなら、十分お釣りがくるよ」

そう言って千秋が出て行ったドアの方を見る。彼女はちゃんと恋を捉まえることが出来るだろうか。逃がしたりしたら渡瀬を許さない、と砂本は思った。

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