空を舞う金魚
夜中でも搭乗者の居る空港は賑わっていた。これからナイトフライトを楽しむ人たちが笑顔で歩いている。千秋は履き慣れないパンプスで保安検査場を目指していた。空港なんて初めて来るから、通りすがりの人に道を聞いたりして、兎に角急いだ。
走るたびに転びそうになるパンプスを脱いで手に持って走る。広い館内を人をよけながら急ぐ。出発時間が刻一刻と迫っていて、もしかしたらもう搭乗ゲートかもしれない。そう思っても走る足を止められない。
渡瀬くん、渡瀬くん、渡瀬くん!
通りすがりの人とぶつかりながら、それでも保安検査場を目指す。目の前に開けた保安検査場に並んでいる人の中に、グレーのトレンチコート姿の渡瀬を見つけた。
「渡瀬くんっ!」
千秋の声に此方を向いた渡瀬に涙が零れる。持っていたバッグも靴も投げ出して渡瀬の胸に飛び込んだ。千秋を受け止めた渡瀬が驚いて声を上げる。
「あっ、綾城さん!?」
「行かないで、渡瀬くん! ううん、行っても良いから、行かないで……っ! わ、私を、置いて行かないで……っ!」