空を舞う金魚

取り残された教室に吹き込んだ風を思い出す。あの時に戻ってやり直しがしたい。今度こそ渡瀬に時間を進めて欲しい。

胸の奥からせり出した涙が喉を遮って全部伝えきることが出来なかったのに、渡瀬はちゃんと言葉をくみ取ってくれた。身一つで胸に飛び込んだ千秋を抱き締めて安心させてくれる。ぽろぽろ零れる涙が止まらない。

「置いて行かない。……もう、絶対に。これからは誰にも邪魔させない」

そう言って千秋を抱き締めた腕を解くと、千秋を床に下した。

「い、行かないって……。でも、飛行機は……」

千秋と渡瀬の周りの乗客は次々と検査場へ吸い込まれていく。当然渡瀬も行かなくてはならない筈で、行かないで欲しいと願いはしたが、行かないという選択はない筈だった。

「落ち着いて、綾城さん。まず、今回は現地の会社との事業のすり合わせに行くだけだから、二週間で帰ってくる」
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