空を舞う金魚
その言葉を聞いて、漸く千秋は体の緊張を解いた。安心してほう、と大きな息が零れてしまった。目じりに溜まっていた涙がぽろりと零れる。それを渡瀬は指で拭ってくれた。
「綾城さんは住み慣れた日本を離れなくても良いと思う。俺は毎日連絡するし、出来るだけ不安にさせないよう努力する。それでも一緒に行ってくれることを選んでくれるなら、俺も俺なりに準備する」
渡瀬が千秋の頬を撫でる。包むように撫でられて、ぬくもりが嬉しいと思ったのはこれが初めてだ。
「ついて行く……。これ以上離れるのは嫌……」
三度目は嫌だ。もう我慢できない。映画のように愛を信じていっときでも別れるなんて絶対嫌だ。
自分の中に、こんなに渡瀬を欲していた気持ちがあったなんて知らなかった。
渡瀬を探して走っていた時より動悸が激しくなる。渡瀬を求める気持ちが、出口を求めて心臓を流れる血の中で暴れ狂って息を苦しくしていた。それに加えて渡瀬が千秋の腰を抱いたままで、間近から見下ろされている。真っ白い明かりの中、走って乱れたであろう髪やメイクが気になってきた。渡瀬の視線から逃れようと俯くと、名を呼ばれた。
「? 綾城さん?」
「ご、ごめん……。見ないで……」
顔を背けようとしたら、逆に覗き込まれてしまって逃げ場がない。