空を舞う金魚
「なんで? 俺を追いかけて来てくれたんでしょ?」
「み、みっともないから……。……髪もメイクも、めちゃくちゃだし……」
「なんで? かわいいよ? 綾城さんにみっともない所なんてないよ」
そう言って、混乱する千秋を宥めるように額にキスをした。
「……っ!!」
突然のことで驚いて赤くなっていると、渡瀬がにやりと笑った。
「綾城さんが慣れるのは待たないから。俺は砂本さんみたいにやさしくないし」
そう言うと渡瀬は千秋の顎をくいと上げて、やわらかい皮膚を唇に当てた。
一瞬の早業で否やを唱える前にもう一度頬にキスされる。
「ちょ……っ、わたせ、くん……っ」
恥ずかしいから、という言葉は継げなかった。嬉しそうな渡瀬の顔に負けてしまう。
「あはは、嬉しいんだよ。このくらいさせて。十年待ったんだ」
そう言って放していた身体を再びぎゅっと抱き締めてくる。千秋も、これからいっときも離れたくないくらいの気持ちだったのに、二週間も会えないことを考えて、渡瀬の腕の力に身を任せた。千秋だって、十年耐えたのだ。その時間を埋めるのに必要な時間は沢山要る。それがこれから無限にあることに喜びを感じて、渡瀬の胸に頬を寄せた……。