空を舞う金魚

「違います。……初めてお会いしました」

一瞬、渡瀬くんが息をのんだ音がした。砂本さんは千秋と渡瀬のやり取りを気にした様子もなく、それじゃあ、よろしくね、と千秋に言って、渡瀬を連れて行った。

席に座って大きくため息を吐く。ふと気づくと、手が震えていた。

まるであの時と一緒だ。織姫と彦星に毎年祈っていたあの願いは、一体何だったのだろう。もう一度渡瀬と会えば、それで千秋の止まっていた時計は進みだすと思っていた。でも、こんな一瞬の自己紹介だけで、あっという間にあの時に戻ってしまった。あの時から千秋の時計は一瞬も動いてなかった。……彼を前にしても。

この時は、一体どっちへ進みだすのだろう。止まったままだけは、嫌だと思った……。

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