空を舞う金魚
「良いよ、凄くかわいい」
砂本からもだけど、男の人にかわいいって言われるのにやっぱり慣れない。恥ずかしくて顔に熱が集まるのが分かった。
俯いて赤くなった顔を晒さないようにしていたら、どうして恥ずかしがるの、と笑われた。
「メイク変えたってことは、気持ちを良い方向に変えたってことでしょ。それを褒めてるのに、恥ずかしいと思う理由が分からないな」
渡瀬はそう言うけど、彼も金魚だからそう思うのだろう。『かわいい』なんて、砂の中の千秋は何時まで経っても慣れないと思う。
……でも。
装った千秋の気持ちが渡瀬に届いたのかと思ったら、少し嬉しかった。
ポーンとエレベーターが到着した音が鳴って、エレベーターホールに居た人たちが昇降機に乗り込む。千秋も渡瀬と一緒に箱に乗り込んだ。隣同士の、とても近い場所で、千秋は小さな声で渡瀬に話し掛けた。
「あの」
「うん?」
ありがとうございます。
小さく会釈をして伝える。渡瀬が微笑んだのが分かった。