空を舞う金魚
お弁当を食べ終わって、メイクを直しに行く。化粧ポーチに何時ものブラウンのリップと、今日着けてきたオレンジベージュのリップ。迷ってブラウンのリップを手に取ると、隣でメイク直しをしていた滝川が、止めときなよ、と言った。
「折角かわいく変わろうと思った気持ちを、自分で否定しちゃだめだよ。千秋ちゃんは、かわいいんだから」
そう言われて、朝の渡瀬の言葉を思い出す。そうだ……。いい方向に気持ちが変わったんだ。……渡瀬と砂本のおかげで。
「……そうですね」
滝川にそう返事をして、リップを持ち変える。オレンジベージュのリップを刷いた鏡の中の千秋は、どこか生き生きとした目をしていた。
「やっぱり良いよ、その色。今度新しく買うなら付き合うわよ」
「ふふ、楽しみにしておきますね」
笑いながらそう応える。……やっぱりまだ慣れなくて鏡からは目を逸らしてしまったけど、嬉しさで口許が微笑んでしまった。