空を舞う金魚


終業後、従業員のマグカップを洗っていると、砂本が給湯室に現れた。

「綾城さん、今から渡瀬くんと課長と部長四人で打ち合わせをするから、お茶を頼んでも良いかな」

「あ、はい」

差し出された砂本のマグカップを受け取る。そこで砂本が、あれ、という顔をした。

「綾城さん、今日、なんか違うね。表情が明るいよ。……メイク変えた? リップ? かな?」

砂本の言葉に千秋が照れくさく微笑みながら、そうなんです、と言うと砂本は、

「ああ、やっぱりそうか。いいね。いつもそうしてれば良いのに」

とやさしい目をして微笑んだ。

「い、……いつもは無理です」

「そう? 女の子はメイクで気持ちが変わるって言うじゃない。表情も明るいなら、尚の事良いことだなと思ったのに」

そんな、毎日毎日テンション高いままで居られない。苦笑して応えられない千秋を置いて、砂本は打ち合わせに行ってしまった。取り敢えず今日は、伝えたい人に千秋の気持ちの変化が伝わったからよかったことにしよう。次にこのリップで出社するときはどんな気持ちなのだろうと、千秋は考えた。

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