初恋キャンディ〜one-way love〜

「知ってた?私たち、ホントは2年前に会ってたんだよ」

彼に笑いかけながら、手首を握る彼の手をそっと掴んで離すと、身体を起こす。

中庭に咲く初夏の花々を見て廻りながら、心の奥にずっと閉じ込めて鍵をかけていた、"あの日”の記憶を呼び起こした。

"あの日"を思い出すと、正直今も、耐えがたい痛みに襲われる。

何か表せない感情が、心臓の奥深くに居座って、消えてくれないんだ。

でも、いつまでも逃げてちゃダメだから、、、



その日は、私の1番大切な日、同時に、最も最悪な日。

当時中学3年生だった私は、いつも暇さえあればフルートを吹いていた。

そして、”天才カナリヤ"と呼ばれている、世間でもちょっと名のしれた中学生。

ピアニストの母と、音楽家の父のもとに生まれた私は、両親の影響で、幼い頃から音楽が好きだった。

音楽関連なら、基本的にどんなことでも好きだったけど、中でも特に心を惹かれたのはフルートだ。

ある日母に言われてついていった、小さな音楽家のコンサート。

そこで、目立たないながらも、曲全体を優しく彩るフルートの音色を聞いた。

あの時の、全身が震えるような感覚は、今でも鮮明に覚えている。

まるで、朝方の心地よい風が窓からふわっと吹き込んでくるような、そんな素敵な感覚。

一瞬で、私も吹いてみたいな、って思った。

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