偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
貴臣(たかおみ)くんは当社社長、是枝蘭子(らんこ)さんの弟で現在二十七歳の私より五歳年上だ。

私の母と蘭子さんは高校時代からの同級生でとても仲が良い。

その縁もあってかプライベートで是枝社長と呼ぶと嫌がられるため、職場を離れると以前のように蘭子さん、と呼ばせてもらっている。


私の実家は都内にある勤務先から電車で一時間ほどの距離にある。

現在は私も四歳年上の兄もひとり暮らしをしている。

実家から徒歩五分ほどの場所に蘭子さんの自宅がある。

私の実家付近のほとんどの土地は是枝家が所有している。

貴臣くんは都内にあるお屋敷のような本邸で生活していたのだが、大学在学時に蘭子さんと同居するため引っ越してきた。

蘭子さんの自宅はこの付近では有名な洋館で木造二階建てのわが家三軒分ほどの大きさがある。


「仕事の休みを合わせて独身の男女が外出するのよ? デート以外にないでしょ」


「なんでもかんでも恋愛に結びつけないで。貴臣くんは近所のお兄さん、恋愛感情はなし。それ以外でも以下でもないの。そもそも貴臣くんの取引先の出店祝いの一環なんだから」


「ああ、銀行の? まだしばらくは勤務するの?」


「将来の修業のために就職してるから、そうなんじゃないかな。詳しくは知らない」


是枝家は代々ホテル業を営んでいて、日本で五本の指に入る大企業だ。

後継ぎになる予定だった蘭子さんは弟にその役目を早々に譲り、自身は母方の実家の事業であった薬局を継ぐ決意をしたのだ。

自社で独自の敏感肌の化粧品開発を行うのが若い頃からの夢だったそうだ。
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