偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「私の参加を反対しないの?」


「なんで反対する必要がある?」


「副社長夫人が参加するのに相応しくないとか、なにか制約があったりしないのかなって」


「藍がやりたいなら、好きにすればいい」


ほら。


あなたは当たり前のように、私の選択や行動を肯定して尊重してくれる。


それがとても嬉しい行為だと、気づいている?


「……ありがとう」


「礼を言うほどのものじゃないだろ」


一見仏頂面のようだが、声音はとても優しい。


「ご馳走様、行ってくる」


あっという間に朝食を食べ終えた櫂人さんが、席を立つ。


「いってらっしゃ……」


い、と言う前に軽く唇を塞がれた。


「見送りはいい。自分の支度があるだろ。藍、気をつけてな」


ぽんと私の頭をひと撫でして、颯爽とダイニングを出ていく。


なんで、当たり前のようにキスするの?


躊躇ったり迷ったりしないの?


なによりも。


なんで私は拒否しないの? 


最初のデートでキスをされて以来、彼はこんな風に何度も私の唇を奪う。

本気とも演技ともつかない、デートでの告白の答えはまだ私の中でくすぶっている。

彼は気づいているのか、明確な答えを求めない。

それでも出勤前や帰宅時、顔を合わせた際にはキスをされる。

あまりにも自然なキスに、彼の真意がわからなくていつも混乱する。

口づけられるたび動揺する私とは対照的に彼は表情ひとつ崩さない。
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