偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
『答えが出ていない私にキスしないで』


二日ほど前、意を決して口にした私に返ってきた答えは単純だった。


『お前の答えを出やすくしているんだ』


『簡単には出ないし、そもそもこの結婚にそんな感情は不要でしょ』


『ズルイな。俺にはすぐに答えを求めるのに』


『え……』


『いい加減俺も我慢の限界だからな。今度のパーティーで仲睦まじさを見せるために多少のスキンシップは必要だし、近い距離感に慣れる必要があるだろ』


前半に言われた意味がわからない。

それでもかろうじて返事をする。


『パーティーの演技のために、キスしてるの?』


『……お前の年齢でその思考は天然なのか、わざとか、本気で一度じっくり確認したい』


失礼な物言いにカチンときたが、うまい言いまわしが見つからない。


キスさえも、この結婚のためのカモフラージュなの?


それなのにむきになって理由を尋ねるなんて、私はどれだけ幼稚なのだろう。

櫂人さんの言う通りだ。

私は明確な答えひとつ返せていない。

それなのに質問ばかりしている。

そもそも私にそんな資格はないのに。

この結婚も、彼の本心も、すべてが無理やり作られた世界のような気がして心細くなる。

なにが真実なのか、その境目さえも曖昧で見失いそうだ。

せめて自分の心くらい偽らずにいたいと願うのに、その方法すら見失いそうで怖い。



一番信頼できるはずの夫に、なにを口にすればいいか迷うなんて。

こんな関係が長続きするわけがない。
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