偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「藍ちゃんは? どなたかいい人はいないの?」


「わ、私ですか?」


「藍ちゃんは可愛いし、こうして地域活動にも積極的に参加しているし、私に息子がいたら是非お嫁さんに欲しかったわ。ねえ、あなた?」


「そうだな、我が家には娘しかいないから残念だ」


三野さんの旦那様がのんびり返答する。


「藍ちゃんをお嫁さんにもらえる人は幸せよ。藍ちゃんの薬局が近かったら通うのに」


勤務先の説明をしたところ、本気とも冗談ともつかない声をあげる加納さん。


「お前、薬局は通うものじゃないだろ。藍さんを困らせるな」


「いえ、あの、ありがとうございます」


短時間一緒に過ごしただけなのに、こんなにも温かく受け入れてもらえるのが本当に嬉しい。


「――すみません、藍がお世話になっています」


屈みこんで作業していた私の頭上から、突如聞こえた低い声。


「あら、あなたは?」


「遅れて申し訳ありません。藍の婚約者の栗本です」


目を見開いて固まる私の視線の先には、相好を崩して三野さんに返答する櫂人さんの姿があった。


なんで、ここにいるの? 


帰宅は明日のはずでしょう?


疑問が頭の中を駆け巡る。

婚約者は、悔しいくらいに整った面差しを私に向ける。
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