偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
“好き”


わかっていたようで、ずっと遠ざけていた感情。

簡単なようで、なにより複雑な気持ち。


ああ、そうか。


私は、もうとっくに櫂人さんに恋をしていたんだ。


……櫂人さんが、好きなんだ。


自覚した途端、今まで抑え込んでいた気持ちが身体中を駆け巡っていく気がした。

この婚約は、結婚は、契約上のもので仕方ないと考えていた。

自分の失態で始まった縁だから、彼を絶対に好きにはならない、なってはいけないと無意識に自分の気持ちにブレーキをかけていた。

なによりこの恋は絶対に報われない。

いつか、ほとぼりがさめたら終わりが来る。

そこに明るい未来なんてない。

だからずっと、ある程度の距離をとって接していた。

櫂人さんが嫌がる振る舞いをわざとするか、完璧な演技をして、心が散々傷つく前に離れようと考えていた。


だけど。


あの人は私のそんな防御壁をもろともせずに近づいてきた。

その強引さが怖くて、陥落するのを恐れて自分の心に気づかないフリをずっとしていた。

頬がどんどん熱くなる。


「私……」


「ふふ、若いっていいわねえ。藍ちゃんが可愛すぎてドキドキしちゃうわ」


朗らかな声を上げる三野さんに、絶妙のタイミングで櫂人さんが近づいてくる。
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