偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
貴臣くんは日本で一番難しい大学に進学し、ひと通りの後継者に必要な勉学を修め、現在は都市銀行で営業職として活躍中だ。


「イケメン、頭脳明晰、仕事もできる独身御曹司。是枝さんは独身女性の憧れの的ってわかってる?」


「渚に散々説明してもらったから理解してるわよ」


「私に彼氏がいなかったら確実に恋に落ちるけど? 初恋の人でしょう?」


「初恋っていうか、初対面のときは王子様みたいだって憧れてたの。でも今では完全に兄代わりよ」


短めのサイドがおしゃれなツーブロックスタイルの黒髪に、少し垂れ目がちな二重が特徴の貴臣くんはとにかく女性にモテる。

恋人らしき女性と歩く姿を目にしたのも一度や二度ではない。

ちなみに蘭子さんはアーモンド形の二重の目がとても印象的な美人で、驚くほど足が細く長い。

美女美男の姉弟なのだ。

貴臣くんは面倒見がよく、私の大学受験勉強も仕事の合間を縫って懇切丁寧に教えてくれた。

そもそも貴臣くんがここに越してきたのは蘭子さんを手伝うためだ。

蘭子さんはこの付近の所有物件の管理も任されていたそうなのだが、薬局の引継ぎに多忙を極め手が回らなくなっていたのだ。


『姉の陰謀だ』


当時の話をする際にいつも貴臣くんは苦々しく口にするけれど、姉弟仲はとてもよいと思う。

私自身も兄とはそれなりに仲がよい。

ちなみに我が兄と貴臣くんは気が合うようで、昔からふたりでよく外出していた。
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