偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「藍、返事は?」


「ご、誤解よ。さっきは櫂人さんについて考えていたの」


思わず口にすると、再びキスをしようとしていた彼の動きが止まる。


「……俺を?」


「櫂人さんが好きだって気づいてそれで、どうしようって……」


段々弱々しくなる声。

頬に熱がこもっていくのがわかる。


想いを自覚して、すぐにこんな無様な告白をするなんて。


恥ずかしさと情けなさが込み上げる。

今すぐここから消えてしまいたい。

うつむきたいのに、顎に添えられた指のせいで逃げられない。

櫂人さんがどんな表情をしているのか、怖くて確認する勇気がない。

どこまでも意気地のない私は、ギュッと目を閉じて頬の内側を強く噛むしかできない。

その瞬間、ふわりと唇に優しい感触があった。


「……お前はどこまで俺を翻弄するんだ」


困ったような声に思わず瞼を持ち上げると、そこには驚くほど優しい表情をした婚約者がいた。


「俺はずっと前からお前を好きなのに」


甘く低い声が耳に響く。


「う、そ……」


「嘘じゃない。大体好きでもない女に何回もキスして、同居するわけないだろ」


「でも、カモフラージュって……」


「それは一部否定できないが、ただ俺が藍と離れたくなかっただけだ」


拗ねたような口調で彼が言葉を紡ぐ。


「契約上の結婚って、干渉するなって」


「お前の気持ちを無視して、強引に進めた自覚はあるからな。これ以上藍の生活スタイルを崩して嫌われたくなかった」


私の、ため?
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