偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「嘘……」


「だから、嘘じゃないと言ってる」


「櫂人さんが私に最近優しいのは演技だって、パーティーのための練習だってずっと思ってたのに。好きになっちゃダメだって言い聞かせてたのに……!」


ずっと胸に抱えていた想いが堰を切ったように零れ落ちる。


「ごめん、俺がもっと早く伝えればよかったな」


そう言って、彼は顎に触れていた指を離し、私を両腕で強く抱きしめた。


違う。

こんな、八つ当たりみたいな言い方をしたいわけじゃない。


あなたも私と同じ気持ちで嬉しい、夢みたいだと素直に伝えたいだけなのに。


「お前の気持ちがわからなくて、どう振る舞うべきかずっと悩んでいたんだ」


額、こめかみと小さなキスを落とす婚約者の甘い仕草に鼓動が跳ねる。


「そんなの、私だってわからないよ……」


いつの間にか溢れた涙で、視界が滲んでいく。

胸が震えてうまく声が出ない。


「そうだな。じゃあこれからは本物の婚約者として、些細な出来事や悩みも隠さずに話し合うようにしよう」


あやすように、彼がそっと私の涙を唇で拭う。

その仕草が優しくて声が出ない。

うなずくだけで精一杯だ。
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