偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
ベンチに並んで腰を下ろし、まずは腹ごしらえをする。


「――それで、どういう経緯で想いが通じ合ったの?」


細かく聞き出すというわけでもなく、要点を押さえた物言いはさすが親友だ。

なにも口にしていないのに、伝えたい内容をよくわかっている。

一部始終を話し終えた私に渚は大きく息を吐いた。


「まったく、うまくまとまったからよかったものの、ふたりとも不器用すぎるのよ」


祝福しつつも呆れたような視線を向けてくる。


「ふたりとも?」


「栗本副社長も不器用でしょ」


「櫂人さんが?」


「……恋は盲目ってよく言ったものよね。あの人、藍だけをすごく大切にしてるじゃない。気づいていないのはお互いだけよ」


親友の物言いにこれまでの彼の態度や言動を改めて思い出す。

言われてみれば最初から櫂人さんは私をとても大切に扱ってくれていた。


「なにはともあれ、おめでとう。藍が幸せそうで親友としては嬉しい限りよ」


「心配かけて、ごめんね」


「ううん、いいの。これからは心配をかけたくないからって、必要最低限の話しかしなかったり、なんでもひとりで解決しようとしてはダメよ」


いつになく親友が真摯な目で見つめてくる。


「責任感が強いのも、我慢強いのも藍のいいところよ。でもそれは恋愛をするうえでは諸刃の剣になるわ。自分だけが我慢していても幸せにはなれない。もう十分思い知ったでしょう?」


「そうね……これからはきちんと櫂人さんと向き合うわ」


私の返答に親友は満足そうにうなずく。
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