偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「でもすごい偶然よね」


「なにが?」


「お見合い相手が藍に似ていた件よ」


「ああ、うん」


渚の指摘にほんの少し胸が塞ぐ。

白坂さんと私はそれほど似ているのだろうか。

出会ったあの日の記憶を探っても、今となっては確信がもてない。


それは心の片隅でずっと気になっていたものだった。

彼が私を好きになってくれたのは、もしかして白坂さんに似ていたからなのかと。

元々お互いの事情を知った上での割り切ったお見合いだったと聞いている。


でもそのときの彼の本心はどうだったのだろう?


「もう、藍ったらまた悪い方向に考えてるでしょ。似ていたのはむしろ強みなのに」


「え?」


親友が言わんとしている内容がわからない。


「似ている女性がいても副社長に選ばれたのよ。それって藍自身を、性格や内面的なものを好きになったってことでしょ」


「そう、なのかな……」


「そうよ。だから藍は堂々としていたらいいの。もうすぐパーティーなんでしょ?」


「うん」


「体調管理もしっかりしなきゃね。身体に無理しちゃダメよ」


しっかり者の渚の助言にうなずく。


「じゃあ、そろそろ戻ろうか」


公園に設置されている時計塔を見上げて親友が腰を上げる。

その動作を真似るように私も立ち上がった。

そうだ、今はしっかりパーティーを乗り切れるように頑張らなくては。

もちろん午後からの業務も。

ほんの一瞬浮かんだ小さな不安の種を無理やり頭の奥に押しやる。


「うん、行こう」


渚に同意して、私たちは店舗に向かって歩き出した。
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