偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
翌朝、約束の時間に合わせて自室で身支度をしているとスマートフォンが着信を知らせた。


『おはよう、藍』


「貴臣くん、おはよう。どうしたの? 待ち合わせ時間は十二時だよね?」


もしや時刻を間違えたのかと焦って壁掛け時計に視線を向ける。

現在は午前十時を少し過ぎたところだ。


『時間は間違いじゃないんだけどさ、ごめん。ちょっと急なトラブルで出社しなくちゃいけなくなった』


貴臣くんの声には申し訳なさと焦りが滲んでいる。

今日は貴臣くんも一日休みの予定だった。


『悪い。今日の食事は延期させてほしい』


「了解。それより仕事は大丈夫なの?」


『ああ、今から向かう……本当にごめんな。せっかくの休日なのに』


「仕事なんだから気にしないで。部屋の掃除や前々から行きたかったカフェに足を運んでみてもいいし、やりたいことはたくさんあるから大丈夫」


『それなら、栗本ホテルに行って来たらどうだ? この間あそこのティーサロンのアフタヌーンティーセットを堪能したいって言ってただろ?』


「よく覚えてるね」


『大切な妹ですから』


真摯な口調に思わず苦笑する。

栗本ホテルは言わずとしれた、栗本ホールディングスの傘下にあるホテルだ。

歴史ある豪奢な佇まいはもちろん、そのきめ細かく丁寧なサービスにも定評がある。

特にティーサロンは女性たちに人気だ。
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