偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「こんな豪華な指輪、もらってしまっていいの……?」


「藍のために選んだんだから受け取ってくれないと困る。パーティーで是非つけてほしい」


正直、勿体ないというか失くしたらどうしようと気がかりで、簡単にはつけれそうにない。


「指輪、いつの間に用意してくれていたの?」


「プロポーズしようと決めてから、藍にバレないように準備していた。ちなみにサイズはお前が眠っている間に採寸した」


……知らなかった。


「婚約指輪は俺が選んだから、結婚指輪は後日一緒にゆっくり選びに行こう」


「え、あ、うん、いいの?」


「当たり前だろ。俺たちが一生一緒に身につけるものなんだから」


一生、という響きが嬉しくてくすぐったかった。


「じゃあ藍、婚姻届にサインしてくれるか?」


すっと目の前に広げられた紙にはすでに櫂人さんは記入済みで、証人欄にはお互いの父のサインもされてあった。


「こ、これ……!」


「お互いの両親に頼んで書いてもらった。時間の都合がつかず、婚約パーティーのぎりぎりに入籍という慌ただしい日程になってしまってすまない」


「違う、そうじゃないの。こんな風に私のためにしてくれるのが嬉しくて……」


奔走してくれた気持ちが愛しくて、私と私の実家の家族に向き合ってくれたのが、なによりありがたいのだと。

どうすれば伝わるのだろう。


「妻の気持ちと幸せを考えるのは当たり前だろ?」


知らず知らずのうちに再び溢れ出した涙を、指で掬ってくれる。

本当に嬉しいと、人はなにを口にすればいいのかわからなくなるのだと初めて知った。
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