偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「今日は絶対に俺のそばから離れるなよ。お手洗いに行くときやどうしても一緒にいられないときは是枝社長と行動するように」


「そんな、大袈裟な……」


「大袈裟じゃない。言わなかったか? 俺は藍を独占したいんだって」


色香のこもった眼差しが真っ直ぐに私を捉えて離さない。

そっとこめかみに落とされた柔らかなキスに肩が跳ねる。


「今日は是枝さんも来る予定だ。彼には極力見せたくないし、会わせたくもないが」


「なんで? 貴臣くんは兄みたいなものなのに」


「それでもだ。俺の知らない藍を知っていると思うとたまらない気分になる」


なにかのスイッチが入ったかのように饒舌に不満を語りだす彼の対処法がわからない。


「副社長、子どもみたいな駄々をこねないでください。斎田様が困っておられます。間に合わないので参りますよ」


いつものように絶妙のタイミングで現れた真木さんが、呆れたような冷たい視線を櫂人さんに向けている。


「相変わらず失礼な奴だな」


「副社長を尊敬すればこそですよ。斎田様、本日はおめでとうございます。とてもお綺麗です」


「あ、ありがとうございます」


「真木、じろじろ藍を見るな」


「当然の賛辞です。狭量な男性は嫌われますよ」


「うるさい」


ふたりのやり取りに苦笑する中西さんに再度お礼を伝え、会場へと向かった。
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