偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
翌朝、暗澹たる想いを抱えたまま、目覚めた。

カーテンの隙間から差し込む光にほんの少し気分が上がる。

私の身体にはいつものように櫂人さんの長い腕が巻き付いている。

伏せられた目と長いまつ毛を見つめる。

完璧な面立ちにため息が零れる。

そっと彼の胸に額を寄せて、昨日の出来事を思い出す。



パーティーは無事に終わった。

蘭子さんと栗本社長が和やかに話している姿も見かけたし、婚姻届の提出日を問われた記憶も薄っすらある。

書類に不備はないのかと尋ねる蘭子さんは面倒見の良い姉のようで感傷的な気分になった。

私の不安を知ってか知らずか、好きだけで押し通せない世界もあるし味方がたくさんいるのだから頼りなさい、と強い口調で言われた。


お客様のもてなしも不十分だった私に櫂人さんは苦言を呈したりしなかった。

気の抜けない時間を過ごしていたのは彼のほうだろうに、帰宅した際にはお疲れ様と私を労ってくれた。

そんな彼の優しさが胸に詰まった。

私では伴侶の役目は務まらない、と上田さんが暗に伝えてきた理由を痛感する。

今の私では力不足でむしろ足手まといだ。



結婚は当人はもちろん、家同士の繋がりも大きい。

人として未熟な上にお互いの信頼も気持ちも揺らぎかけている私たちがうまくやっていく術はあるのだろうか。

私は今後どうすれば彼にとって有益な存在になれるのだろう。


身体も心も疲れきっているのに、頭が冴えて昨夜はなかなか寝つけなかった。

櫂人さんは急ぎの仕事があるからとすぐに自室に向かっていく。

先に休むようにとの気遣いが今は胸につらかった。
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