偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「それで電話してくれたの? ありがとう、私は平気。貴臣くんも職場じゃないの? 忙しいのにごめんね」


『俺の心配はいい。今は自分のことだけを考えろ。お前の元に記者連中が押し寄せないよう手筈は整えているが気をつけろよ。なにかあったらひとりで抱え込まずに助けを求めるんだぞ』


相変わらず兄代わりは心配性で優しい。


「ありがとう、気をつける」


『約束だぞ。婚約者とはこの件について話したのか?』


「……ううん、なにも」


脳裏に昨夜の彼の姿が蘇る。

彼とは今朝もあまり言葉を交わしていない。

それほどまでに忙しかったのだろうか。


『アイツ、なにをやってるんだ。まったく手がかかる……いいか、藍。俺としても釈然としないし腹が立つが、この件について一度きちんと話し合ったほうがいいぞ』


「うん、でも今すぐは無理だと思う……忙しいだろうから」


『おいおい……藍、今職場だよな? 渚ちゃんはいないのか?』


「隣にいるよ」


代わってくれと頼まれて、スマートフォンを渚に渡す。

貴臣くんは何度か私を迎えに来てくれたことがあるので渚とは顔見知りだ。

渚は神妙な面持ちで相槌を打ち、ふたりはしばらく言葉を交わしていた。

その後、スマートフォンを返されてもう一度貴臣くんと話す。


『渚ちゃんにも伝えておいたから』


「なにを?」


『俺はお前の味方だし、全力でぶつかってダメだったらいつでも受け止めてやるって話だよ』


「……ありがとう」


できるだけ明るい声で礼を告げ、通話を終える。
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