偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
『話を戻すけど、遠慮せずにアフタヌーンティーを堪能しておいで』


「……じゃあお言葉に甘えます」


『ああ、今日は本当にごめんな』


「ううん、本当に気にしないで。蘭子さんにも内緒にしておくから」


『ありがとう。気をつけて行けよ』


「うん」


心配性な兄代わりの忠告を素直に受け止めて、通話を終えた。

 
身支度を整え、電車で栗本ホテルに向かう。

車内はお昼前の時間帯のせいか、それほど混雑していなかった。

空席に座り、車窓を眺めているとすぐに目的の駅に着き、そこから数分も歩かぬうちにホテルに到着した。

豪奢なエントランスを通り抜け、一階奥にあるお店へ向かって足を踏み出す。

こんな高級ホテルには縁遠く緊張を隠せない。

歩く速度を少し落として腕時計に視線を向ける。

時刻を確認すると午後十二時を過ぎていた。

顔を上げたとき、濃紺のワンピース姿の女性が近づいてきた。

つばの広い帽子とマスクを着用した女性はすれ違う瞬間、私の顔をじっと凝視してきた。
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