偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
週末までの時間は短いようで長かった。

同じ家に住んでいるのに櫂人さんとは驚くほど顔を合わせなかった。


夜中にふと目覚めたとき、身体に巻きつく腕の重みと体温に彼の存在を確認して小さく安堵する。

寝息をたてる彼を起こさないようにそっと触れたのは一度や二度ではない。

胸の奥に燻る不安と孤独を無理やり埋めるように彼に身を寄せる。


気を緩めれば零れ落ちそうになる涙を必死でこらえる。

一度でも泣いたら不安が現実になりそうで怖くて、頬の内側を強く噛みしめる。

もういい大人なのに、精神面の弱さが嫌になる。

週末が早くくればいいと願う一方で悲しい結果になったらと恐れる自分がいる。

そのせいで今週の私の眠りはとても浅かった。


約束の土曜日がやってきた。

今朝早く出勤した櫂人さんに、夕方には戻るとメッセージをもらった。

半日の勤務を終えた私が玄関ドアを開けると、すでに櫂人さんは帰宅していた。

黒のVネックシャツにデニムというラフな装いだ。

僅かに見える鎖骨が色っぽい。


「お帰り、藍。お疲れ様」


櫂人さんに玄関先で迎えられる。
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