偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「藍? なんでそんなところに突っ立てるんだ?」


「あ、ううん、別に」


声をかけられて、ハッとする。

促され、彼の左隣に腰かける。

ほんの少し沈み込むソファの感触にさえ緊張して、まごつく。


「あ、あの忙しいのに時間をとってもらってごめんね」


「いや、俺も話したかったから」


どこかぎこちない会話に大きな隔たりを感じてしまう。


「藍はなんで俺と距離をとってるんだ?」


心の中を見透かされた気がして息を吞む。

彼に視線を向けると、厳しい眼差しにぶつかった。


「……婚姻届を出したくないからか?」


「え?」


「結婚が嫌になった? 婚約を破棄したかったのか?」


なにを言ってるの? 


「俺を好きだと言ったのは嘘か? それともほかに好きな男ができた? お前を昔から理解して守ってくれる、アイツがいいのか?」


答えない私に焦れたのか、語調がどんどん厳しくなる。

それに比例するように視線も鋭くなり、身体が強張る。

綺麗な面差しの人が怒ると凄みが増す。


「藍、答えて」


「こ、婚姻届って、なんで?」


震える声を必死に絞り出して、やっとの思いで問いかける。

有無を言わさぬ口調と明らかに怒りを含んだ視線に怯む。
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