偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「藍の戸籍謄本は手元にあるはずだと是枝社長に聞いた。なんで嘘をついた? いつまで誤魔化すつもりだったんだ?」


「誤魔化すなんて、そんな」


「だったらなぜ黙っていた? 話すチャンスや婚姻届を提出する機会はいくらでもあったよな?」


淡々とした口調が彼の怒りを物語る。


「嘘をついたのは、ごめんなさい。でも誤魔化すとか櫂人さんを騙すとかそんな気はまったくなかったの」


「じゃあ、なぜ?」


真っすぐな視線が痛い。

ギュッと冷たくなった指を握りしめ、掠れた声で返答する。


「……櫂人さんが本当にこの届けを出したい女性は私じゃないと思ったから」


「意味がわからない」


私の決死の告白を一蹴して、疲れたように彼はどさりとソファの背もたれに身体を預ける。

クシャリと前髪をかき上げる仕草にイラ立っているのだとわかる。


「俺が婚姻届を渡したい相手はお前だけだ。なんでそんな解釈をする?」


「だって、私は白坂さんに似ているんでしょう? 櫂人さんは白坂さんを好きだから、似ている私を縁談相手に選んだんじゃないの?」


「あのくだらない記事を本気にしてるのか?」


「くだらなくなんてない。そもそもあの噂が真実か嘘かさえ私にはわからない」


売り言葉に買い言葉のような応酬に彼の表情が強張っていく。

普段冷静沈着なこの人が白坂さんの話題にはこれほど敏感に感情豊かに反応するのかと醜い感情が湧き上がる。

同時に胸が千切れそうなくらいにひどく痛む。
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