偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
けれど今、彼の声を聞いたら間違いなく泣いてしまう。
それだけは避けたい。
この場所に来てせっかく止まり始めた涙をもう一度溢れさせたくない。
心の中で彼に謝罪し、電源を落とそうとしたとき、再びスマートフォンが着信を告げた。
液晶画面に表示された名前は、貴臣くんだった。
その名前を目にした私は通話をタップする。
「……はい」
「藍? 話し合いはうまくいったのか? メッセージも送ったが反応がないし、どうしたのか気になってさ。邪魔したら悪いとは思ったんだが、姉貴もうるさくてさ」
私は関係ないでしょ、と遠くから蘭子さんの声が聞こえる。
ふたりは今、一緒にいるのだろうか。
いつもと変わらない兄代わりの穏やかな声と明るい調子に、張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れた気がした。
「貴臣くん……やっぱりダメだったよ」
「は?」
「私じゃ、あの人のパートナーにはなれないの」
「藍?」
「ごめんね、応援してくれていたのに」
謝罪を口にした途端、視界が滲んだ。
「……藍、今、どこにいる?」
私の態度がおかしいと気づいたのか、貴臣くんの口調が真剣なものに変わる。
それだけは避けたい。
この場所に来てせっかく止まり始めた涙をもう一度溢れさせたくない。
心の中で彼に謝罪し、電源を落とそうとしたとき、再びスマートフォンが着信を告げた。
液晶画面に表示された名前は、貴臣くんだった。
その名前を目にした私は通話をタップする。
「……はい」
「藍? 話し合いはうまくいったのか? メッセージも送ったが反応がないし、どうしたのか気になってさ。邪魔したら悪いとは思ったんだが、姉貴もうるさくてさ」
私は関係ないでしょ、と遠くから蘭子さんの声が聞こえる。
ふたりは今、一緒にいるのだろうか。
いつもと変わらない兄代わりの穏やかな声と明るい調子に、張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れた気がした。
「貴臣くん……やっぱりダメだったよ」
「は?」
「私じゃ、あの人のパートナーにはなれないの」
「藍?」
「ごめんね、応援してくれていたのに」
謝罪を口にした途端、視界が滲んだ。
「……藍、今、どこにいる?」
私の態度がおかしいと気づいたのか、貴臣くんの口調が真剣なものに変わる。