偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
11.君のそばに ~side櫂人~
今、なにが起こった?


脳裏に浮かぶのは最愛の婚約者が目を伏せて、悲しみを堪える姿。

長いまつ毛が涙に濡れている様子は痛々しく、今すぐ抱きしめたい衝動にかられる。

視線を合わせようとしない藍に、焦燥感だけが募っていく。

すでにこの場にいない婚約者の表情が離れない。

そばにいて、何者からも守りたい、ずっとそう願っていたのに。

長い間捜し続けてやっと出会えた人なのに。


どうして、是枝さんと去っていくんだ?


ギリッと奥歯を噛みしめる。

落ち着けと何度も自分に言い聞かせるが、荒れる感情を抑えられない。

立場上、感情抑制には慣れているはずなのに、藍が絡むとコントロールがきかない。

どれだけ彼女を想っているのか、嫌でも思い知らされる。


そもそも、なんで是枝さんが藍を迎えに来たんだ?


是枝さんが将来、家業を継ぐため金融業界で修業と称した経験を積んでいるのは、巷ではよく知られた話だ。

なにより是枝グループとうちは古い付き合いがある。

俺の婚約者はなぜか是枝姉弟に溺愛されていて、今回の婚約も正直、藍の両親を説得するより是枝姉弟を納得させるのに骨が折れたくらいだ。

やっと再会できた最愛の女性を大切に想わないはずがない。
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