偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
是枝さんは間違いなく藍をひとりの女性として想っている。

ただその気持ちを彼女に伝えるつもりはないのか、藍は恐らくなにも気づいていない。

かといって俺が伝える気はないし、応援するつもりも毛頭ない。

わざわざ強力な恋敵を参戦させたくない。 

藍と是枝さんがふたりきりで過ごすのは、本音を言えば嬉しくない。

どうしても嫉妬してしまう。


藍を独り占めしたい。


後継ぎとして伴侶を得ろという祖父の言いつけがあったのは事実だが、なにより一日も早く入籍して名実ともに藍と夫婦になりたかった。

この婚姻は誰よりなにより、俺が切望したものだった。

そしてその気持ちは彼女に伝わっていると思っていた。

なのになぜ、藍があれほど悲しんでいるのか。


俺はなにを間違えた?


そもそも藍の今日の話がよく理解できない。

そのとき、パンツのポケットに入れていたスマートフォンが着信を告げた。

取り出し、着信相手の名前を見て小さく息を吐いた。

応答したくないが仕方ない。


「はい、栗本です」


『白坂です。おふたりはいったいどうされたんですか!?』


挨拶も抜きに問われる。

どうやら先ほど藍と是枝さんに偶然出会ったそうだ。

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