偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
『お節介と失礼を承知で申し上げます。恋愛はタイミングと縁がなによりも大切だと思います。ほんの少し歯車が狂うだけですべてを失う事態になるんです。くだらないプライドや順序を守って後悔しても知りませんよ』


迷いなく告げる彼女に反論すらできない。


『是枝さんは強力なライバルですよ。弱っているときに手を差し伸べてくれる人の存在は大きいですから。しかもずっとそばで見守ってくれていた相手なら尚更、親愛の情が恋愛感情に変化しても不思議はないので』


とんでもない発言に、血の気が引く。


冗談じゃない。


ずっと想い焦がれていた婚約者を誰にも渡すつもりはない。


『同性の立場から言わせていただくと、黙って問題を解決しようとするのは美徳ではないですし、むしろマイナス要因です』


「マイナス、ですか」


『ええ。私が斎田さんの立場なら完全にネットニュースを信じますね。斎田さんは栗本副社長と私がお見合いをした本当の理由も知らないんですよね?』


「……ええ」


『斎田さんはあなたの腹黒い幼馴染に別れるよう言われても、我慢して努力されていたんです。それなのに栗本さんは記事もなにもかも知らん顔の無関心。肝心な話ははぐらかす。斎田さんが疑心暗鬼になるのは当然です』


「……俺なりに気持ちは伝えていました」


余裕がなくなり、言葉使いが粗野になるが構っていられない。

こんな場所で、しかも電話で人生相談をしているなんて冷静に考えれば滑稽だが、今は気にしていられない。
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