偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
『婚姻届を出したくないのは櫂人さんのほうでしょ？　私を、好きじゃないでしょ？』


なんで俺のせいにするのかと腹が立った。


『……本当に好きな人と、幸せになってください』


お前を愛しているのに、お前以外の女と幸せになれるわけがないだろうとイラ立った。

藍がどんな思いだったのかなんて考えもしなかった。

あの華奢な体でどれだけの重圧を背負い、傷ついていたかを理解できていなかった。


なにが全力で守る、だ。

誰よりも彼女を傷つけた俺にそんな台詞を口にする資格はない。

絶対に泣かせないと決めたのに、あんなにも悲しい表情をさせてしまった。

なぜ、婚姻届を出したくない理由を冷静に尋ねなかったのか。

あの当時の俺を全力で殴ってやりたい。


『ふたりで一緒にいるのに意思疎通ができないなんて、孤独でしかないですよ』


白坂さんの指摘が鋭い矢となって胸に突き刺さる。


『栗本さんが斎田さんに心配をかけないよう奔走されていた気持ちは理解できます。でも夫婦になるんです。結果をただ聞かされるより、過程を知って相談されるほうが安心しませんか？　少なくとも私は相手にそう望みます』


彼女の言葉が心の深い場所に真っすぐに落ちて来た。


俺の選択肢は間違いだらけだ。
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