偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
突然後方から聞こえた低い声に恐る恐る振り返ると、そこには長身のスーツ姿の男性が立っていた。

切れ長のくっきりした二重の目にすっと通った鼻筋、男性にしては細めの顎に薄い唇。

小さめの額にかかる黒髪は艶やかで無造作に分けられている。

貴臣くんも整った容貌だが、タイプの違う極上の美形男性だった。

ただしその表情は残念なぐらいに険しかった。


「……お前……」


なぜか彼は私をじっと凝視して驚いたように目を見開く。

けれどすぐに眉間に皺を寄せる。


「あの女性とお知り合いですか?」


厳しい口調で問いかけられる。


「いえ、先ほど助けを求められたんです」


「……失礼ですが事情とお名前をお伺いしても?」


「は、はい。斎田藍と申します」


現状が理解できない。

なぜか責められている気分になるのはどうしてだろう。

数分だけ一緒にいた女性との出会いについて、わかる範囲で返答すると美形男性は眉根を寄せる。


「よくわかりました。すみませんが、もう少しお話をしたいのでご同行願えませんか?」


丁寧な口調なのに断れない威圧感を感じる。

明らかにこの男性は怒っている。

けれど理由がわからない。


この男性はあの女性とどういう関係なの?


頭の中に答えの出ない疑問ばかりが浮かぶ。
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