偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「彼女と結婚する」
迷いのない低い声が豪華な設えのホテルの一室に響く。
……なにを言い出すの?
これは、ただのお見合いでしょう?
「櫂人、少し落ち着きなさい。そんな急に、奈緒美さんも驚くわ。あら、奈緒美さん、髪の色を変えたの? 以前の黒髪もよく似合っていたけど茶色も素敵ね」
奈緒美、さん?
髪の色?
私の名前は斎田藍だし、肩までの真っすぐな髪は一カ月ほど前に染め直したところだ。
新卒で入社して五年になるが就職活動時のように黒髪に戻した覚えはない。
私以外の誰かに話しかけているのかと思ったけれど、栗本副社長の母親らしき女性の視線は、真っ直ぐ私に注がれている。
「母さん、この人は白坂奈緒美さんではないよ」
低い副社長の声が響き、幅の大きな二重の目が私を捉える。
父親譲りの少し釣り目がちな二重の私には羨ましいくらい綺麗な目だ。
口元を綻ばせばがらも彼は逃げるのは許さない、と言わんばかりに私と絡めた指にギュッと力を込める。
「紹介するよ――俺がずっと恋焦がれていた斎田藍さんだ」
「は、初めまして、斎田藍と申します」
名乗った声が無意識に震える。
“恋焦がれていた”だなんて。
よくもまあ、そんな嘘を堂々と恥ずかしげもなく言えるものだ。
私たちはつい一時間ほど前まで、知り合いでもなんでもなかったというのに。
迷いのない低い声が豪華な設えのホテルの一室に響く。
……なにを言い出すの?
これは、ただのお見合いでしょう?
「櫂人、少し落ち着きなさい。そんな急に、奈緒美さんも驚くわ。あら、奈緒美さん、髪の色を変えたの? 以前の黒髪もよく似合っていたけど茶色も素敵ね」
奈緒美、さん?
髪の色?
私の名前は斎田藍だし、肩までの真っすぐな髪は一カ月ほど前に染め直したところだ。
新卒で入社して五年になるが就職活動時のように黒髪に戻した覚えはない。
私以外の誰かに話しかけているのかと思ったけれど、栗本副社長の母親らしき女性の視線は、真っ直ぐ私に注がれている。
「母さん、この人は白坂奈緒美さんではないよ」
低い副社長の声が響き、幅の大きな二重の目が私を捉える。
父親譲りの少し釣り目がちな二重の私には羨ましいくらい綺麗な目だ。
口元を綻ばせばがらも彼は逃げるのは許さない、と言わんばかりに私と絡めた指にギュッと力を込める。
「紹介するよ――俺がずっと恋焦がれていた斎田藍さんだ」
「は、初めまして、斎田藍と申します」
名乗った声が無意識に震える。
“恋焦がれていた”だなんて。
よくもまあ、そんな嘘を堂々と恥ずかしげもなく言えるものだ。
私たちはつい一時間ほど前まで、知り合いでもなんでもなかったというのに。